更新日:2016. 12. 11.
活性酸素=ヒドロキシラジカル説は誤り
酸化チタン光触媒が実用化されて以来、一般向けの光触媒の解説書がたくさん出版されました。その中には、図8のような光触媒の仕組みが書かれている本があります。電子は酸素と反応してスーパーオキシドラジカルをつくり、正孔は水と反応してヒドロキシル(OH)ラジカルをつくるというのです。
図8 近年、流布されている、誤った「光触媒の仕組み」
ところが、酸化チタンによる光酸化反応は、水が無くても起こります。また、水を加えても一般に反応は促進されません。したがって、OHラジカルは必要がないわけです。
これだけの実験事実からしても、図8の仕組みはおかしいことがわかります。さらに、もしOHラジカルができたとしても、酸化チタンに吸着したOHラジカルの酸化力は、吸着していないときより著しく下がることがわかっています。
活性酸素は、フリーな状態よりも吸着した方がエネルギーが下がるので、吸着した活性酸素は、フリーな状態より酸化力が下がります。OHラジカルやスーパーオキシドラジカルは、生体内ではたいへん酸化力が強いとされていますが、生体外の反応では、それほど酸化力は強くありません。生体内には酸化されやすい物質が多いので、弱い活性酸素でも酸化が起こるために、酸化力が強いと錯覚されているのです。実際、触媒反応では、これらの活性酸素は重要視されていません。
OHラジカルやスーパーオキシドラジカルの酸化力を簡単な実験で確かめることができます。OHラジカルはフェントン反応によって、またスーパーオキシドラジカルは過酸化カリウム(KO2)と水との反応によってつくることができます。このようにしてつくったOHラジカルやスーパーオキシドラジカルは一酸化炭素を酸化できません。酸化チタン光触媒は、一酸化炭素を酸化できますから、これらの活性酸素よりも強力な活性酸素ができていることになります。実験についてはこちらを見て下さい。
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